食材原価は上がる事はあってもなかなか下がるという事はない。人口量が減少すれば当然食事量も減少する。食事量が減少するという事は生産者、流通業者も生き残る為に人口量の多い所に食材を流すようになる。そうなれば人口量の少ないエリアはますます食材原価が高騰する。実際に地方の卸売市場では食材そのものが流通して来ないというような事態に陥り、撤退を余儀なくされるという事が起こりつつある。現在は一部のエリアで起こっている問題ではあるが、今後日本全体でこのような事が当たり前に起こる可能性は十分にあり得る。
これからの飲食業界で生き残る為には、原価率のコントロールは必須のノウハウと言えるだろう。一般的に飲食店の原価率は30%と言われているが、そのような販売戦略を取っていては食材のグレードダウンか値上げしか原価削減の対策は取れない。ここでは飲食店の原価率の管理方法と狙い通りに着地させる為の原価率のコントロール方法について解説したい。
飲食店の原価率と計算方法、それに関連する用語
飲食店の原価とは食材やドリンクの仕入れ額に相当する。原価率とは売上に対するこの原価の比率のことだ。例えば300円で仕入れて900円で販売すれば、原価率は30%になる。この場合900円-300円の600円の部分が営業利益の源泉となる。この600円の部分を粗利と呼び、売上に対する比率を粗利率と呼ぶ。
一商品しか取り扱わない飲食店であれば、単純に上記のような計算で原価が算出されるが、実際にはほとんどの飲食店が様々な商品を持っている。当然お客様の好みによって注文数は異なる。このお客様毎の注文数を踏まえて実際に注文された商品の原価を足したものは理論原価(標準原価)と呼ばれており、多くの飲食店が原価管理の指標として取り入れている。
また月締めで計算する場合、今月仕入れた食材を今月中に使い切るかどうかはわからない。使い切らずに翌月に持ち越した食材の価格は棚卸額と呼ばれている。仕入れ値に月初の棚卸し額を足して、月末の棚卸し額を差し引いたものを実際原価という。この理論原価と実際原価の差がロス率と呼ばれるもので、飲食店の原価率の管理はロス率の管理から始まり、理論原価をコントロールして(オーダーコントロール)、仕入れ額をコントロールするという流れで行われる。
コントロール可能な7つのポイントを抑えてまずは無駄を無くす
原価率のコントロールは基本的には無駄を無くす事から進めるべきだ。ほとんどの場合、先述のような商品を入れ変えて原価をコントロールする以前に、無駄を無くせば原価が下がることが多い。
廃棄ロス
文字通り廃棄によって発生するロスだ。在庫回転しない商品や仕込み過ぎ、先入先出ができていない場合などに多く発生する。根本的な発生要因は食材の管理力不足がほとんどだ。冷蔵庫や冷凍庫の中身が散らかっていたり、元あった場所に直さないなど整理整頓ができていないことが原因となる。対策方法としては、テプラーやマジックテープで定物定置を行なったり、棚卸しをダブルチェックで行なったりなどがある。
歩留まり
食材を加工した際に商品で使用しない部分を廃棄してしまうことによる無駄や下処理の技術力差で発生する。どうしても食べられないような部分も中にはあるが、商品化出来ないかを検討すべき要素だ。例えば牛肉の筋であれば筋煮込み等にしたり、魚の骨であれば骨せんべいにしたりと工夫することで削減できる可能性がある。技術力差で発生する部分に関してはマニュアルを整備したり、人件費と歩留まり率のバランスを見て外注してしまうことで解決する場合がある。
ポーション管理
定量で提供していないことによるロスである。従業員が慣れている人間が多い時こそ発生しやすい。先に仕込んでも味が劣化しないものは先に定量でしっかり測ってカットしてしまったり機械化することで対策可能であるものもある。
オーダーミス/注文の取り消し
従業員の打ち間違いや聞き間違い、配膳先の間違いなどで発生するロスだ。注文後に復唱を徹底したり、配膳の前にダブルチェックするように掛け声をかけるなどで対策している飲食店が多い。
過剰在庫
几帳面な性格の店長で発生していることが多い。食材毎に適正な在庫量をきっちり管理していて、普段滅多に出ない食材であっても少しでも減れば発注するという場合だ。適正量が問題なければ問題ないが、心配だからと多めに入れている場合は適正在庫量を見直す必要がある。
予約の直前キャンセル
当日に予約がキャンセルとなって、仕込んだ商品が無駄になってしまうケースだ。どうしてもお店側で対策しきれないという部分であることは間違いないが、その数を減らすことはできる。10名以上のご予約は前日に電話確認するなど、5分程度の労力で数十万円のロスを対処できることもある。
盗難ロス
度々起こることではないが、食材やレジ金を持って帰る従業員がいる場合も悲しいことではあるが起こりうる。ダミー等でも良いのでカメラを設置しておくことはそうした過ちを起こさない防止策になり得る。
これらはいずれも基本的に人的ミスによるものだ。日頃から原価意識を持てるような職場環境を作ることが重要なことである。従業員だけが使用するセロハンテープやキッチンペーパー等に「1枚○円の原価」等を記載して普段から自然に意識するように工夫している飲食店も多い。
商品改廃で原価率をコントロールする為には単品原価率を計算する必要がある
仕入れた商品をそのまま販売するという飲食店であれば、原価率のコントロールは仕入れ値を下げるか売価を上げるかのいずれかしか選択肢は無くなるが、多くの飲食店はそうではない。お客様に実際に販売する商品は複数の仕入れた商品の組み合わせによって生まれる。食材を加工する上で、メニューに使用していないものは廃棄するだろうし、賞味期限や消費期限が過ぎた食材は当然廃棄するしかない。それを把握する為には実際に販売するメニュー一つ一つの原価率、つまり単品原価率を算出する必要がある。
単品原価率から理論原価率を算出する
単品原価率が算出できれば、理論原価率を計算する事ができる。その為には一定期間のお客様の商品別の注文数(以下、出数)が必要になる。POSレジ等を使用しているのであればデータを出力する事ができるはずだ。無い場合は伝票を確認して数えるしかないが、数える価値は必ずある。出数が分かれば販売価格に出数をかけて、単品毎の売上を算出する事ができる。これで単品毎にどの商品が売上に貢献しているのかが把握できるはずだ。単品毎の売上を全体の売上で割ったものは一般的に売上構成比と呼ばれている。
この単品毎の売上構成比に、単品毎の原価率を掛け算したものは交差原価率と呼ばれている。
交差原価率=単品売上構成比×単品原価率
そして全ての商品の交差原価率を足し算すると、理論原価率を算出できる。
原価率コントロールの為のルールを決める
「これで理論原価表が完成した!実際に原価削減、原価コントロールに取り組もう!」
多くの飲食店はここでつまずく。具体的どのような使い方をすれば良いのかわからないというケースが多いのだ。
何アイテム改廃するのか、どういった基準に該当する商品が改廃の候補なのかそういったルールが無いままでは、単なる数字遊びで終わってしまう。また、なかなか原価が下がらないという飲食店に良くありがちなのが「やりっぱなし」の状態か原価が上がったから対処するケースだ。両者とも気まぐれで商品を改廃しているのが共通点である。そうならないためには、基準となるルールを定義しておくべきだ。
例えば、よくあるパターンでは
1.売上構成比の下位20%を確認
2.交差原価率が高い順に並び替える
2.その中で食材重複の無い物は削除
3.食材重複のあるものは、食材はそのまま新商品と入れ替える
4.商品は良いのに出数量が減少傾向のものはおすすめシートに記載
5.それでも伸びなければ新商品と入れ替える
6.入れ替える商品は全○アイテムのうち5〜7アイテム
といった具合だ。
これを決める為には重点的に見るべき数字を決める必要がある。
その際に必ず外してはいけない項目が「期間」と「時系列で見る粗利と出数」だ。
期間
どのような期間で理論原価表を用いた商品改廃や原価の見直しを行うのかを決める。一般的には春夏秋冬の季節毎に4回や2回といったケース、4ヶ月に一回といったケースが多い。ポイントは期間で一括集計するというわけでは無いという点だ。期間ごとだけの一括集計では、時系列の変化を追う事ができない。これから芽が出るはずだった商品を摘んでしまうリスクが発生する。商品改廃は年2回〜4回実現できる範囲、可能であればお客様の来店頻度に合わせて店舗毎に設定すれば問題ないが、集計は月単位等で取った方が良い。
時系列で粗利率と出数を追いかける
全ての数値を時系列で追っても意味がない。どのような数値分析でも言えることだが、目的に合わせて必要な数値を追うのはPDCAを上手く行うための基本だ。こと理論原価のコントロールに関しては、商品別の粗利率と出数の推移を追うのが良い。
飲食店で使用する食材は季節や情勢で仕入れ値が大きく変動する。これをいち早く察知し、提供方法や調理方法、ポーションコントロール等を行う事で「いつの間にか原価が上がっていた」というリスクを回避できる可能性が高くなる。
出数の推移に関しても同様で、季節やトレンドで偶然まとまった注文が入った結果、出数の上位に食い込んでいたというケースは多々ある。
また、忙しい時間帯にオペレーションに負荷がかかってしまうような商品だと、よく注文が入っていると現場のスタッフが錯覚してしまうことがよく起こる。
実際に出数を見ていると、月に数食しか売れていないというのは、皆さんも経験があるのではないだろうか。
このような商品を売れていると感覚で判断してしまうと、一部のお客様にしか受けない品揃えのお店になってしまい客層が狭まり売上が下がるかもしれない。
もちろん感覚で判断すべきものも飲食店の経営には必要だが、数値も基準にした方が誤った意思決定を選択する確率は格段に下がる。
この2つの指標を追うことで
①原価が上がり続けている商品
②最近出数の伸びている商品
を把握できる。
これらが把握できていると、例えば、代替食材で同じような商品を再現できれば粗利率を上げることが可能だし、②に関してはカテゴリ化すればさらに出数を伸ばすことができるので、トッピングなどで粗利率アップを行うなどの戦術が取れる。
理論原価率が下がったら、仕入れの発注を見直す
商品改廃で理論原価率が下がったら、実際原価も下がっているかを確認して欲しい。仮に変わっていないのであれば仕入れに反映されていない可能性が高い。習慣で仕入れている商品や、仕入れる必要が無くなったのに業者から届いているという場合がある。
また、仕入れ先を新たに開拓するという動きは常に行なっておくべきだろう。特に出数の多い主力食材に関しては常にアンテナを張っておくべきだ。時には生産者の所に赴いて直接交渉を行なってみるのも大切なことだ。原価変動の大きい野菜などは地元の農家等に出荷出来ないB級品を買い取れないか交渉している飲食店もある。
まとめ
飲食店の原価管理とコントロール方法に関して、追うべき数字、実際に起こり得るロス等を交えて説明した。
最後に原価対策の流れをまとめる。
1.まずはロス率を把握し、無駄を無くす
2.理論原価、交差原価率、出数、粗利率等を基準に商品改廃のルールを決める
3.理論原価と実際原価が比例関係となっているかを確認し、仕入れを見直す
4.主力食材の仕入れ先に常にアンテナを張っておく
原価コントロールとは基本的には原価を下げることとイコールの関係になるはずだ。しかし、原価率だけを見ていてはお店の魅力は上がらない。原価率の高い商品を投入しても原価率をコントロールできるようになれば、集客と連動した原価対策が可能になってくる。
少しでも参考になれば幸いだ。