飲食店の集客の原則はリピーター育成だ。
いくら新規のお客様を集客できていても、リピーターが増えなければ穴の空いたバケツに水を注ぐことと同じでだ。新規客が減った途端、収益が大幅に減少する。
リピーターを増やすには、顧客満足度を上げなければならない。
そこで、ここでは顧客満足度を高めるための考え方と効果的に改善するためのポイントについて紹介する。
顧客満足度とは
そもそも顧客満足度とは何だろうか。
お客様に満足してもらうという事は、文字通りわかるが、どうすれば「満足」な状態になるかを少しロジカルに考えてみよう。
満足というのは評価の結果、良いと判断したということである。
評価とは基準とその基準との乖離の良し悪しのことだ。
お客様の基準は、主にお客様の外食経験、つまり競合店で決定される。
最終的に評価されるタイミングはお客様がおかえりになった後だ。
これを図にすると以下のようになる。
要するに来店前の期待と来店後の評価が顧客満足度ということである。
これを公式にすると
顧客満足度が高い状態=来店前期待度<来店後評価
と書くことができる。
顧客満足度は基本的に引き算
ここまでの内容を踏まえると、顧客満足度は基本的に引き算だということが分かるはずだ。その根拠はお客様はあなたのお店に来店する前からあなたのお店が嫌いということは無いからだ。嫌いならそもそも選ばれていないし、わざわざ来店もしない。つまり、外食経験を基準にしてそれを100点満点とした減算評価が行われていると考えるのが論理的解釈だ。
つまり来店前期待値<来店後評価を成立させるためのファーストステップは、大きく減算される要因をあなたのお店が持っていないかどうか確かめるところから始まる。もしそういった要素が存在するのであれば、まずは最速でそれを排除することから始めるべきだ。
いくら高評価が得られるポイントがあったとしても、大幅な減算ポイントを持っていれば、相殺もしくはマイナス評価になってしまうリスクを抱えているということを肝に命じておいて欲しい。また、そうした評価が口コミとして広まってしまうと、マイナス部分が誇張されて広がる可能性が高い。悪い噂は10倍の速さで広がるというのは有名な言葉だ。
顧客満足度が大きく下がる3つの速度
では、最も顧客満足度が下がる可能性の高い要素は何だろうか。
それはお客様からのお叱りの言葉「クレーム」を考えれば分かるはずだ。クレームが一度もない飲食店というものは存在しない。
考えてみて欲しい。クレームの中で最も多いキーワードは何なのかを。
「商品がまずい」というのは論外として考えると、おそらく「遅い」というキーワードではないだろうか。
飲食店で遅いと言われるタイミングは大きく3つ存在する。
案内速度
お客様がご来店してから席にご案内するまでの速度だ。ビジネスでは第一印象が大切とよく言われるが、それは飲食店でも同じと考えてもらえば良い。お店に入ったのに対応が無ければ当然お客様は不安に思うし、いわば他人の家に入っているのと同じ状態なのでどう身動きをとれば良いかもわからない。つまりストレスを感じる。ストレスを感じるということは、大きくマイナスの評価に働く。
提供速度
商品を注文してからお客様の席に届くまでの時間だ。一般的にはドリンクは3分以内、食事は初回提供が10分以内、追加オーダーが15分以内と考えてもらえば良い。しかし、あくまでこれは一般論で、あなたのお店の業態と客層によって異なる。ビジネス街のランチで15分待たされれば当然遅いと感じるだろうしが、居酒屋で3品目の提供が15分かかっても遅いと感じない人もいるだろう。
お客様から「商品がまだ届いていない」、「オーダーは通っていますか」といったクレームが出た時は、ざっくりでも良いので時間を計測しておくべきだ。もちろんクレームが出ないことが望ましいが、オーダーが集中した時などはどう頑張っても遅くなってしまう時があるだろう。そうならないためにも、あなたのお店での提供速度の基準は把握しておくべきだし、何度もクレームを受けるようならその時間以内に提供できる方法を考えるしかない。
また、あらかじめ提供速度が遅くなる場合は事前にお客様にその旨を伝えておくべきだ。予約でほとんど満席状態の時のフリーオーダーであればご案内前に「満席でご提供が少し遅れる場合がございます」とお伝えしたり、そもそも調理に時間がかかるものであればメニューブックに記載するなどの方法だ。
中には全てのメニューに提供速度の目安を記載している飲食店もある。
事前に伝えたからといって提供速度に関するクレームが無くなるという訳ではないが、伝えるのとそうでないのには雲泥の差があることは言うまでもない。
接客対応速度
呼んだのに来ない、会計をしたいのにレジに人がいないなどの速度だ。人不足の飲食店でよく起こり得ることで、主に気が付かないことで発生してしまう「遅れ」である。これは、誰かが気づく環境を整えるしか方法がない。レジにも呼び鈴を設置したり、インカム等で近くのスタッフに指示を出す等でしか対応にしようがない。
一方で逆の発想をすれば、呼ばれる前に解決しておけばその心配も無くなるという考え方で経営されている飲食店も中にはある。そういった飲食店では常にホールをスタッフに巡回させ、ドリンクのおかわりやバッシング、取り皿の交換等を呼ばれる前に対応している。
当然後者の方が効率もお客様からの印象も良いものになるだろう。あらかじめそういった人材を配置する前提で人件費を考えておくというのも経営戦略において重要な考え方だ。
「商品がまずい」という状態を除いて顧客満足度が上がらないという飲食店は、まずはこうした速度の問題を解決してほしい。
初めに提供する商品は来店時の加算要因になり得る
顧客満足度は基本的に減算方式で評価されると解説したが、実は加算されるポイントも存在する。それが初めに提供する商品だ。理由はお客様の評価の基準値をあなたの店の基準値に唯一上書き出来るタイミングだからだ。第一印象が重要と先ほども説明したが、これは提供する商品にも当てはまる。初めに提供する商品がお客様の期待度を超える強い印象を与える商品であれば、その後の商品への期待も当然高まる。当然お客様の外食経験に基づく基準も踏まえての話ではあるが、初めの商品がその基準のとなる割合を大きく増やす事ができる。
初めの商品に印象をつける方法は様々であるが、大きく3つの視点がポイントとなる。
ボリューム
最も簡単にお客様に印象づけが出来る方法が競合他社を圧倒する商品の量をお客様に見せることだ。これを行う時に気をつけるべきポイントはお客様一人当たりの食事摂取量だ。一商品の注文で完結する業態であれば気にする必要はないが、複数商品を注文される業態の場合は、これだけでお客様が満腹になってしまえば当然客単価が下がる。
一般的には男性が300~350g、女性で200~250g、食べ放題等の業態では男性400~500g、女性300~350g程度だと言われる事が多い。これもアルコールを提供するかしないかなど、業態によって異なるため、あなたのお店での概算値を把握する必要がある。
平均注文点数と、一組あたりの平均人数から、想定の客単価に合うように調節して決定して欲しい。
実演要素
お客様の前で何かしらのパフォーマンスを行う事で商品価値を高める方法だ。サラダにチーズを目の前でかけたり、バーナーで炙ったり等の方法がある。人間は情報の80%以上を視覚から得ているという研究結果もあるほどで、目の前での実演はお客様の印象付けに高い効果を発揮する。その際に他の五感を刺激する要素も加われば、なお印象付けに効果的だ。鉄板で「ジュージュー」と音と香りを出したり、目の前で蓋を開けて水蒸気を出したりなどがある。一般的にはこれは「シズル」と呼ばれており、お客様に「美味しそう」と感じさせる飲食店では重要なファクターと考えられている。
盛り付け
先ほど視覚からの情報が80%以上と紹介したが、そのほとんどが「色彩情報」だと言われてる。当然配色のバランスも重要ではあるが、シンプルな方法は色の数を増やす事だ。ミズーリ大学の心理学教授であるネルソン・コーワンによると4±1が短期記憶で認識できる限界だと言われている。ただ一方で7±1がそうだと言われる説もある。どちらが真実かはさておき、お客様に印象付けを行うにはこの数字を意識する方が科学的アプローチだと言えるだろう。
最低3色、出来れば6色以上で色彩を意識した盛付けを行う事で印象付けしやすい商品になる可能性があると考えておけば良い。
上記3つの印象付けのポイントのうちあなたのお店が得意なものを一つもしくは複数選択して初めに注文される商品をパワーアップすることをおすすめする。
高満足度の顧客は事後フォローで効果が出やすい
ここまでで最も重要な顧客満足度最大化のポイントを紹介した。顧客満足度を高めることが出来れば、その後の販促効果が大きく上がる。好きな人間からの連絡と、嫌いな人間からの連絡どちらが嬉しいかということを考えれば言うまでもないだろう。事後フォローを行うべき重要性は飲食店の集客・売上アップの基本的な考え方と原理原則で紹介している。詳しく理解したいという方は参考にして欲しい。
加算要因を増やすには当たり前を当たり前でない領域まで伸ばす
初めに提供する商品で印象付け出来れば、その後の評価は接客にも反映される。裏を返せば、まずこの最低限の部分をカバーしてからでなければ、いくら接客が良くてもその効果が半減する。では接客でお客様の満足度を上げるにはどのような考え方を基本に取り組むべきかを紹介する。
基本的な考え方のベースは「当たり前のこと」にある。当然当たり前レベルで実施していては減算方式の評価基準からは抜け出すことが出来ない。
加算方式にお客様の評価方法をスイッチさせるには、当たり前を当たり前でない領域まで引き上げることだ。
例えばお出迎えを例に考えてみよう。
「いらっしゃいませ」と挨拶をするのは最低限当たり前のことだ。しかし、ただ無表情に挨拶しても、他店と比較して良いものとは決して言えないだろう。
減算されないためには、これに「元気よく笑顔で」という要素が入る。こうすることによって、お客様の評価は減算なしにすることが出来る。
ここから当たり前のレベルを越えようとすれば、お客様の名前を覚えたり、お客様の立場に合わせて対応を変えるというスキルが必要になってくる。
例えばご贔屓のお客様がご予約でいらっしゃった時に「○○様、いらっしゃいませ」と一言つけるだけで、その印象は強くなる。
もうワンステップ次元を上げようとすれば、テーブルにウェルカムカードを設置するなどを行う飲食店もある。
その他にも寒い日のお見送りでカイロを配る飲食店などもある。
これらはいずれもお客様の立場に立って当たり前+αを行う事で当たり前を当たり前でない次元に引き上げている。
一方でこれがいかに難しいことかも、飲食店に関わっている方であればわかるはずだ。
個人では出来たとしても、お店全体でそれが出来るレベルまで定着させるには長い時間がかかるからだ。
こうした取り組みは勉強会や座学といったスタンスのレベルアップから実際にロールプレイングでやって見せるような研修方法までお店の風土として定着させる必要がある。並行してこれらの取り組みに着手する事は大切ではあるが、まずは速度の問題と初めに提供する商品に問題がないかを確認すべきだろう。
それでも顧客満足度が上がらない場合は商品に問題があると考えるべきだ
クレームになりやすい問題も解決できた、初めに提供する商品もお客様に満足していただいている、接客も標準的なレベルを担保できている、なのに顧客満足度が低く、リピートしない。中にはこういった飲食店もあるかもしれない。このような状態になってしまっている飲食店はほとんどの場合商品に問題がある。商品の問題とは大きく3つだ。
商品クオリティ
単純に商品が美味しいかまずいかという問題だけではない。提供するお皿が汚れていたり、チップしていたりなど商品全体のクオリティという問題だ。味に関しては、好みを除いてそもそも美味しくないと判断できる商品は全て排除すべきだ。これが意外とできていないお店が多い。商品数を増やすために「置きに行った商品」というものはお店側よりむしろお客様の方が気づくことが多い。
提供する皿が汚れていたり、チップしている場合も同様だ。お店の人間は見慣れているという視点を忘れてはいけない。見慣れていれば違和感を感じないことは多々あるが、それはお客様から見れば違和感を感じることもある。
「これでいいか」と少しでも感じることがあれば、一度本当にこれでいいのかという問いかけを自分に掛けてみて欲しい。
商品と客層のミスマッチ
これは、大きく商品構成自体の問題か、メニューブックの見せ方に問題があるケースに分けられる。
商品構成に問題があるケースは、主に客層付加による売上アップを検討した時などに起こりやすい。新たに集客したい客層に商品構成を寄せすぎて、既存顧客の注文を引っ張ってしまい、本来注文してもらえたはずの高満足度商品が注文されなくなるなどが発生する。バランスを考えた上で商品構成を決めるというのがまず考えるべきポイントになる。
上記のような事態を回避する方法がメニューブックの見せ方だ。客層に合わせて異なるデザイン等にすることで、そのミスマッチを回避することが可能だ。フォントや色合いなど小さな部分でもそれは実現できる。
予算オーバーの客単価
お客様の想定している客単価以上に客単価が上がってしまうと顧客満足度は下がる。お客様の予算は市場相場で決定される。最低限チェックしておくべきは競合同業態で繁盛しているお店の客単価だ。初めはその客単価を基準に考えて値付けを行えば良い。
値付けに関しては、客単価をお客様の平均注文点数で割った価格に商品の品揃えを作ることで解決可能だ。例えば客単価3,000円の居酒屋で平均注文点数が7品であれば、商品は400円付近の価格帯に品揃えを行えば、おおよそその辺りに着地させることができる。競合より安く戦う戦略を取るのであれば、その他の商品を次に品揃えをする価格帯を400円以下に増やせば良い。
まとめ
以上が顧客満足度を最大化するための考え方とポイントだ。
内容をまとめると
1.まずは案内速度、提供速度、接客速度を上げる
2.初めに提供する商品を徹底的に強化する
3.商品のクオリティ、注文のミスマッチ、予算に問題がないか考える
これらはあくまで一つの順番であって、お店によって優先順位は異なる部分も出てくるだろう。今取り組むべきポイントはあなたのお店ではどこに該当するのかを考えた上で、取り組んで欲しい。