居酒屋は外食市場の中で最も市場規模が大きい業態だ。当然競合数が多く、競争が激しい市場ではあるが、それと同時に大きなチャンスがあるマーケットと言える。また、お客様の購買経験が成長しやすく、常に変化が求められる業態といっても過言ではない。
ここでは、居酒屋業態を経営する上でのポイントを解説したい。
一般的な居酒屋の収支構造
項目 | 構成比 |
売上高 | 100.0% |
売上原価 | 35.0% |
売上総利益 | 65.0% |
人件費 | 28.0% |
広告宣伝費 | 4.0% |
減価償却費 | 5.0% |
家賃 | 7.0% |
通信費 | 0.4% |
ゴミ処理手数料 | 0.2% |
クレジット手数料 | 0.4% |
水光熱費 | 3.0% |
消耗品 | 3.0% |
清掃費 | 1.0% |
雑費 | 1.0% |
その他経費 | 2.0% |
販売管理費合計 | 55.0% |
営業利益 | 10.0% |
EBITDA | 15.0% |
原価率+人件費率+家賃比率(FLR) | 70.0% |
何が主力カテゴリの居酒屋なのかによって異なりはするが、ランチ営業を行わないということを前提にした収支構造は上記のようになるのが一般的ではないだろうか。ランチを考慮しない理由は、本来居酒屋業態はランチ無しで収益を安定させるべきだからだ。労働生産性の高いディナーが強い業態であるにも関わらず、生産性の低いランチに力を入れるべきではない。
また、セントラルキッチンや独自の仕入れルートがあったり、後述する宴会比率が高い業態であれば原価率はこれより下がる。単純に売上が足りなければ人件費率・家賃比率は上がる。
着目すべき点は、短い営業時間でも業態が成立するという点だ。カフェや定食屋と比較して、高い客単価を確保しやすく、短時間で一気に売上を取れる。裏を返せば短い営業時間で成立させなければ厳しいということだ。
居酒屋という業態特性
居酒屋という業態はお客様の来店動機、つまり外部環境の影響を受けやすい。週末は忙しいが平日は閑古鳥が無く、18時〜20時は忙しいがそれ以外は微妙というような店舗が多いのが特徴だ。お客様の動いている時間帯の集客は簡単だが、それ以外が異常に難しいという特性がある。
最重要課題は繁忙日、ピークタイムの売上最大化
時間帯別の人時生産性を考えて、アイドルタイムやアーリータイムの集客に力を入れている店舗も少なくないが、これは本質的ではない。まず着手すべきは最も売上の取りやすい時期、曜日、時間に売上を最大化することだ。それに伴い、それ以外の曜日や時間帯にもお客様が流れていくという現象が起こる。これに関しては、売上アップを成功させる集客の基本と原理原則に詳しく説明している。興味のある方は参考にしてほしい。
売上を取れる日に取りきれる人材力が必須
ピークタイムに売上を最大化するには、それを回す人材力が必要になる。しかし、今の時代の居酒屋は深刻な人不足だ。採用をかけても募集が来ないことはザラにある。
つまり、人が少なくても営業できる業態や仕組みに変化しなければならない。
その為の方法は様々なものが存在するが、ここでは多くの居酒屋で対応可能な方法をいくつか紹介したい。
メニュー数の絞り込み
少し前まで、居酒屋の集客力=メニュー数というのが当たり前の総合型居酒屋の時代であった。その名残か、なかなかメニュー数を絞りきれない居酒屋も多い。
絞り込めない理由は、集客につながるお店の顔が固まっていないからだ。「あなたのお店は何居酒屋ですか」という問いに対して明確に答えられない居酒屋は多いと思う。
お店の顔が明確な居酒屋は専門性があると一般的に言われている。
専門性を持つことで、集客力を持ちながら食材を絞り込むことが出来る。その結果メニュー数を削減出来る。
タッチパネル導入
回転寿司や郊外焼肉店ではお馴染みのタッチパネルだが、居酒屋ではまだまだ導入しているお店は少ない。
コスト以外の理由で導入に踏み切れない経営者は、「居酒屋は人がウリなのにタッチパネルなんて」「操作のわからないお客様の説明で結局手が取られる」という話をされる事が多いが、この考えは間違えている。
居酒屋は先述の通り短時間で一気に集客し、回転させる必要がある。簡単に言うと忙しい。その忙しい中でお客様が呼び鈴を鳴らし、なかなか対応に迎えないことはよくあることだ。
この事実を踏まえた上で居酒屋で最も多いクレームがなにかを考えて欲しい。
おそらくほとんどの居酒屋において「速度」に関するクレームが最も多いはずだ。
呼んでも来ない居酒屋と呼ぶ必要が少ない居酒屋のどちらがお客様にとってストレスフリーかを考えれば、タッチパネルの有用性が分かるはずだ。
仕込み工数の削減・外注化
昔は職人さんが丁寧な仕事でやらなければ再現出来なかった味や商品が、仕入れるだけほぼ同じレベルのものまで進化しているということは、今の時代当たり前に起こり得る。
メーカーは莫大な商品開発費用を投入し、日々研究している。そうした研究の成果を素直に享受することも時には必要だ。
オーダーが入ってからの調理工程が多く、その商品が出るだけでオペレーションが狂う。提供遅れの多い居酒屋にはこうしたメニューが大抵存在する。
職人さんは、こだわれるだけこだわれば良い。実際にこだわった結果が売上に繋がる事はよくある。しかし、経営者はそれだけではいけない。各社メーカーから良い商品を提案してもらえる関係性を作りながら、常に模索しておくべきだろう。
予約比率の最大化
先に注文を聞ける可能性の高い予約を増やすことは、少ない人員数で営業するための重要な要因であり、簡単に出来る方法だ。
予約の時に、「当日混雑する可能性もございますので、先にいくつかご注文をお伺いしてよろしいですか」と言うだけで、営業オペレーションは格段に楽になる。初めは大きく変化は出ないが、予約比率が上がれば上がるほどその効果を実感できるはずだ。
予約比率を上げるためには、予約特典を付ければ良い。ファーストドリンク無料でも、5%OFFでも何でも良い。何が効果的かはやってみないとわからないからだ。
色々試してみて、最も効果が出やすいものを継続的にやれば良い。続けることでお客様に浸透させることが重要だ。
ドリンク配膳回数の削減
居酒屋はドリンク売上比率が25%から、高いところでは60%近くまで上がる。ドリンク場はかなり忙しい、重要なポジションだ。ドリンク作成の人員削減はなかなか難しいが、ドリンク場を離れる事が出来ればほかのポジションのサポートに回ることが出来る。また、配膳回数を減らせばホール人員数の削減につながる。
例えばドリンクを大ジョッキで提供するのは一つの手だ。ほとんど全てのドリンクを大ジョッキで提供している居酒屋も存在する。
最近では、セルフの飲み放題コーナーを作ったり、各卓にサーバーを設置する居酒屋も出てきている。
中長期的な人件費より設備投資を行う方がコストカットできるという経営判断だ。
宴会獲得で売上のトップラインを底上げする
居酒屋の一番の強みは宴会獲得で一気に売上が上昇するという部分だ。事前に準備も行えるので、生産性も高い。
宴会獲得のポイントは、席の使い方にある。料理や飲み放題の内容も当然影響はあるが、席の方がお客様の優先度は高い。
一方でそれを十分に訴求出来ている居酒屋は少ない。せっかく個室があるのに個室の訴求力が弱かったり、貸切対応出来るのに訴求していなかったりなどだ。
席、レイアウトに強みが無いという居酒屋は、レイアウト変更を視野に入れるのも一つの手だ。投資はかかるが変更するだけで売上が上がる事は良くある。
検討の余地は十分にあるだろう。
まとめ
以上がこれからの居酒屋経営のポイントだ。内容を3つにまとめると
・最も売上の取りやすいタイミングの売上を最大化する事で、他の時期、曜日、時間にお客様が分散するようになる。
・少ない人員で営業するための仕組みを取り入れ、人材難に対処する
・事前に注文を確保できる宴会、予約比率を高め、オーダーオペレーションを簡素化する。
居酒屋を経営する方の参考になれば幸いだ。